犬の溶血性貧血について|気づかないと命に関わることも
犬の貧血はいろいろなことが原因で起こりますが、その中でもよく遭遇するのが溶血性貧血です。人のように、ふらつきを自覚したり急に倒れたりすると異常に気づきやすいのですが、犬では症状が目立たないことも多く、ご自宅ではなかなか発見できない場合もあります。
今回は溶血性貧血について、いち早く気づいて対応するために注意すべき症状や、当院での治療方針などを解説します。
■目次
1.症状
2.原因
3.診断
4.治療
5.日常での注意点や予防法
6.おわりに ~献血にご協力いただける方を募集しています~
1.症状
貧血の程度によって症状も様々ですが、赤血球が壊されるスピードによって症状の進み方が大きく変わってきます。
ゆっくり進行している時は数週間かけて食欲や元気が落ちるような症状の進み方をするため、分かりにくい場合があります。
また、劇的に赤血球が壊された場合は1日でぐったりしてしまうこともあります。
溶血性貧血になると、壊れた赤血球から血色素(ヘモグロビン)が流出し、尿の色がオレンジがかった黄色、あるいは赤色に変わります。そして、貧血が進行すると歯茎や粘膜の色が白っぽく変色する、といった目に見える変化がみられます。
こうした症状が現れた場合には注意が必要で、さらに貧血が進んで意識がもうろうとしてしまうと、命の危険につながるおそれもあります。
2.原因
溶血性貧血の原因として、細菌(レプトスピラ)や原虫(バベシア)による感染、赤血球の代謝異常、中毒(タマネギやニンニク)などいろいろ挙げられますが、犬で特に多くみられるのは免疫介在性のものです。
免疫介在性溶血性貧血(IMHA)とも呼ばれ、自分の免疫機能がうまく働かずに赤血球を誤って攻撃してしまうことで赤血球が壊れてしまい、貧血に陥ってしまいます。
この病気は特に、コッカー・スパニエルやプードル、フラットコーテッド・レトリーバーなどの犬種や、若齢から中齢(2~8歳くらい)で発症しやすいと言われていますが、実際には様々な犬種や幅広い年齢でも病気の発症が確認されています。
3.診断
粘膜の色や尿の状態を調べるとともに、血液検査を実施して、貧血がないかを確認します。あわせて、血液塗抹標本(血液をガラス上に薄く引き伸ばしたもの)を作成して、血球の様子を顕微鏡で観察することも重要です。
溶血性貧血が疑われた場合は、感染や中毒などの可能性を検討するとともに、特殊な検査(赤血球自己凝集試験やクームス試験)を行います。
一方で、症状がみられなくても健康診断時の血液検査で偶然発見されることもあります。
4.治療
原因ごとに対応は異なりますが、基本的にはお薬を内服することで治療します。
免役介在性が原因である場合には、免疫を抑制するためにまずはステロイド剤を投与し、ステロイドへの反応が良くない場合には免疫抑制剤を使用することがあります。また、血栓症を予防するために抗血栓薬を投与する場合もあります。
稀ではあるものの、お薬での治療で十分な効果が得られない場合には、赤血球が破壊される場所の一つである脾臓を手術で摘出することもあります。
一方、原因が感染の場合には抗菌薬や抗寄生虫薬を、中毒の場合には催吐薬(強制的に吐かせる薬)や活性炭を投与します。
ただし、貧血がひどくて緊急の対応が必要なときには輸血を実施することもあります。輸血に頼らずお薬で治療できるのが一番よいのですが、お薬がうまく効かなかったり、発見が遅れたりすると、治療の甲斐なく助からないケースもあります。
5.日常での注意点や予防法
溶血性貧血は急に発症することが多いので、尿や歯茎の色が変わるなど、疑わしい症状がみられたらご自宅で様子をみず、すぐに動物病院を受診しましょう。
治療のスタートが1日遅れるだけで、お薬が効くまでの時間が確保できなくなる危険性もあります。
定期的に健康診断を受け、軽症のうちに発見し治療することも大切です。
6.おわりに ~献血にご協力いただける方を募集しています~
当院では、溶血性貧血の治療を始めとした輸血時に必要な血液を、大型犬の患者様からご提供いただいております。
人間では輸血を行う際、献血により事前に採血された血液(いわゆる血液バンク)を使用しますが、動物病院業界では一部の病院を除きそのような仕組みはありません。
輸血は溶血性貧血だけでなく、ケガで大量に出血するといった緊急事態に対して、とても重要な治療手段です。そのため、少しでも多くの動物の命を救うためにも、献血にご協力いただける方を募集いたします。
なお、献血時には血液検査を実施しているため、愛犬の健康チェックとして利用できるというメリットもございます。ご協力いただける場合には、お手数ですが当院までご連絡ください。一人でも多くの方のご協力をお待ちしております。
お問い合わせ電話番号:042-705-2211
にゅうた動物病院|相模原市 相模大野・東林間の動物病院
診療内容についてはこちらから
<参考文献>
ACVIM consensus statement on the treatment of immune‐mediated hemolytic anemia in dogs - PMC (nih.gov)
ACVIM consensus statement on the diagnosis of immune-mediated hemolytic anemia in dogs and cats - PubMed (nih.gov)