愛犬が夜だけ咳をする理由とは?| 獣医師が解説する対処法と受診の目安
「日中は元気にしているのに、夜になると急に咳が出る」そんな様子に、心配な気持ちで夜を過ごしている飼い主様もいらっしゃるのではないでしょうか。
夜間に続く咳は、愛犬にとって体の負担になるだけでなく、ご家族の睡眠にも影響を及ぼすことがあります。
今回は、夜に咳が出るときに考えられる主な原因や、ご家庭でできる対処法、受診のタイミングの目安について解説します。
■目次
1.犬の正常な呼吸と異常な咳の見分け方
2.夜間に咳が悪化する主な原因
3.受診の目安となる症状とは?
4.診断方法
5.治療法
6.自宅でできるケアと環境の整え方
7.おわりに
1.犬の正常な呼吸と異常な咳の見分け方
健康な犬の呼吸は、静かで規則的なのが特徴です。
犬種や体格によって多少の差はありますが、安静時には1分間におよそ8〜20回程度、「スースー」と鼻から穏やかに息をしています。
しかし、何らかの原因で呼吸のリズムが乱れると、以下のような咳の症状が見られることがあります。
<よく見られる咳のタイプ>
・乾いた咳(ケッケッ):のどに違和感があるような、空咳のような音です。
・湿った咳(ガッガッ):痰がからんでいるような、重たい響きのある咳です。
・吐き気を伴う咳(ゲーゲー):えずくような動きが加わり、嘔吐と似ていることもあります。
<咳と間違えやすい症状にも注意>
咳に見える動きでも、実は以下のような別の症状であることもあります。
◆逆くしゃみ
「ズーズー」「フガフガ」といった鼻を鳴らすような音が特徴で、口を閉じたまま音が出る点も特徴的です。
興奮時に起こりやすいほか、温度差や室内外の出入りなど、環境の変化がきっかけになることもあります。
多くの場合は一時的な反応で、特に問題のないケースがほとんどです。
◆嘔吐
吐き気がある場合は、直前にそわそわした様子を見せたり、お腹の動きが見えたりすることが多いです。咳との違いを見分けるポイントになります。
2.夜間に咳が悪化する主な原因
夜になると咳が強くなる場合、姿勢や環境、身体の状態の変化が関係していることがあります。
以下のような原因が考えられますので、当てはまる様子がないかチェックしてみましょう。
◆気管虚脱
特に短頭種(パグやフレンチ・ブルドッグなど)に多く見られる病気で、気管(空気の通り道)がつぶれてしまう状態です。
気管が押しつぶされることで、「ケッケッ」や「ガーガー」といったアヒルの鳴き声のような乾いた咳が出るのが特徴です。
◆心臓病(僧帽弁閉鎖不全症 など)
小型犬に多い心臓の病気で、進行すると肺に水がたまる「肺水腫(はいすいしゅ)」を引き起こすことがあります。
この状態になると、息が浅く速くなる、呼吸が苦しそうに見える、咳き込みが増えるといった呼吸状態の悪化が見られます。
特に、仰向けや横向きで寝たときに肺の水が気道を圧迫しやすく、夜間に「ガッガッ」と湿った咳が出ることが多いのも特徴です。
◆気管支炎・肺炎
これらの呼吸器の炎症も、夜になると咳が悪化しやすい原因のひとつです。
横になることで分泌物が気管支や肺の別の場所へ移動し、咳を誘発することがあります。
◆アレルギー
寝具や部屋の中のホコリ、カビ、ハウスダストなどがアレルゲンとなり、就寝中に咳が出やすくなることがあります。
特に換気が不十分だったり、湿度が高い環境では注意が必要です。
◆環境要因(温度・湿度・季節の変化)
夜間の気温や湿度の変化も、呼吸器への刺激となり、咳を引き起こすことがあります。
エアコンや暖房の風が直接当たっているときも、咳が悪化することがあります。
◆その他(体質や加齢による影響)
犬種や体質、加齢による気道の弱まりなども関係する場合があります。
シニア期に入ると、呼吸器や心臓のトラブルが起こりやすくなるため、定期的な健康チェックが欠かせません。
また、夜間に使用される防虫剤やアロマ、消臭スプレーなどの成分が刺激となり、咳の原因になることもあります。
室内環境を整える際には、呼吸への影響にも十分配慮することが大切です。
3.受診の目安となる症状とは?
では、愛犬に咳が見られたとき、どのタイミングで動物病院を受診すればよいのでしょうか。あくまで目安ではありますが、夜間の咳が3日以上続いている場合や、咳とともに息苦しそうな様子が見られる場合は、早めに獣医師に相談することをおすすめします。
<すぐに受診が必要となる症状>
以下のような症状が見られる場合は、呼吸に関わる重大なトラブルが隠れている可能性があります。
緊急性が高いため、すぐに動物病院へ連絡し、指示を受けてください。
・ゼーゼー、ヒューヒューといった異常な呼吸音が聞こえる
・安静にしていても呼吸が浅くて速い
・ぐったりして元気がない
・食欲が明らかに落ちている
・歯ぐきや舌の色が青紫〜灰色っぽく変化している
これらは、酸素が十分に取り込めていない可能性がある危険な状態で、すぐに受診が必要です。
<咳の記録が診察の手がかりになります>
咳の様子は、スマートフォンなどで動画に記録しておくことをおすすめします。
実際の音や咳の強さ、出方などを獣医師が確認することで、診断の助けになる場合が多くあります。
また、以下のような情報も合わせて伝えていただけると、より正確な診断につながります。
・咳が出始めた時期
・咳の音の特徴(乾いた咳か、湿った咳か)
・咳が出やすい時間帯や状況(夜間、運動後、興奮時など)
4.診断方法
咳の原因を正確に突き止めるために、動物病院では以下のような検査を段階的に行い、考えられる病気を一つずつ絞り込んでいきます。
◆聴診
聴診器を使って、心臓や肺の音に異常がないかを確認します。
◆血液検査
全身の健康状態や、体内で起きている炎症や感染の有無を調べます。
◆レントゲン検査
心臓や肺の状態を画像で確認し、腫れや影、液体のたまりなど異変の有無をチェックします。
◆心エコー(超音波検査)
心臓の構造や動き、血液の流れを観察して、心臓病がないかどうかを詳しく調べます。
5.治療法
検査によって原因が特定できたら、それぞれの病気に合わせて適切な治療が行われます。
◆心臓病の場合
利尿薬や、心臓の働きを助けるお薬が使われます。
◆気管虚脱の場合
気管支を広げるお薬の投与や、必要に応じて気管を広げるための外科手術を検討します。
◆気管支炎や肺炎の場合
抗生物質や炎症を抑えるお薬で治療を進めます。
◆アレルギーが原因の場合
炎症を抑えるお薬による治療に加えて、生活環境の見直しも大切なポイントです。
ホコリやカビ、花粉、ハウスダストなど、アレルゲンとなるものをできるだけ避けるために、獣医師がご家庭の環境に合わせた対策をご案内いたします。
なお、症状や体質によっては、漢方や鍼治療などの代替療法が役立つケースもあります。
そのような治療については、別の記事で詳しくご紹介していますので、ぜひご覧ください。
<咳の治療は継続的なケアも大切です>
一時的な咳であれば、短期間の治療で改善するケースもありますが、症状が慢性化している場合は、継続的な管理と根気強い治療が必要になります。
また、再発を防ぐためにも、お薬の種類や投与量を細かく調整していくことが大切です。
そのためにも、定期的に動物病院で経過を確認してもらうことを習慣にしましょう。
6.自宅でできるケアと環境の整え方
毎日の暮らしの中で以下のようなケアを取り入れることで、症状の緩和や体への負担の軽減につながることがあります。
◆環境の整備
高さのある寝床、清潔な寝具、適切な温度・湿度の維持などが効果的です。
また、人間用のアロマや消臭スプレーなどの香りの強い製品は、犬の呼吸器に刺激を与える可能性があるため使用を避けましょう。
◆適度な運動と体重管理
肥満は心臓や気管への負担を増やす原因にもなります。無理のない範囲で毎日軽い運動を取り入れ、獣医師と相談しながら適正な体重を維持するように心がけましょう。
◆ストレス軽減
静かで安心できる寝床を用意し、大きな音や急な環境の変化を避けるようにしましょう。
精神的なストレスも体調に影響することがありますので、愛犬が落ち着いて過ごせる空間づくりを意識してみてください。
◆お薬の管理と注意点
動物病院でお薬が処方された場合は、獣医師の指示通りに正しく投与することが大切です。
また、以下のような副作用のサインにも注意して、異変があれば早めに相談しましょう。
・嘔吐や下痢
・食欲の低下
・元気がない・動きたがらない
これらの変化に早く気づいて対処することで、治療をより安全に進めることができます。
7.おわりに
夜間に続く咳は、ただの一時的な症状ではなく、心臓や呼吸器などの病気が隠れていることもあります。
大切なのは、早めに気づき、適切な検査と治療を受けることです。そうすることで、咳の改善だけでなく、愛犬の健やかな暮らしや生活の質(QOL)を保つことにもつながります。
もし、咳が続いていたり、いつもと違う様子が見られたりした場合は、どうぞお気軽にご相談ください。
当院では、愛犬と飼い主様が安心して夜を過ごせるよう、丁寧にお話をうかがいながらサポートをさせていただいております。ご一緒に、愛犬の健康を守っていきましょう。
にゅうた動物病院|相模原市 相模大野・東林間の動物病院
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