【獣医師解説】犬の胆石と胆汁の異常|健康診断で見つかる理由と治療・予防の考え方
愛犬の健康診断で「胆石が見つかりました」と告げられ、不安なお気持ちになった飼い主様もいらっしゃるのではないでしょうか。
実際、胆石や胆泥(※胆汁が濃くなってドロドロした状態)は、お腹のエコー検査(超音波検査)を行っている際にたまたま見つかることが多くあります。そして、見つかったからといってすぐに症状が出るとは限りません。
しかし、放っておくと状態が悪化し、重篤な病気へとつながってしまうこともあるため早期の診断と継続的な経過観察、そして必要に応じた治療がとても大切です。
今回は、胆汁や胆石に関する基礎的な知識に加え、当院での診療の考え方や、ご家庭で心がけていただける予防の工夫についても解説します。
■目次
1.胆汁と胆石とは?
2.どんな症状が出るの?
3.胆石ができる原因は?
4.診断方法
5.治療法|内科から手術まで
6.日常生活で気をつけたいこと・予防のためにできること
7.おわりに|「無症状」だからこそ、見逃さないで
1.胆汁と胆石とは?
胆汁(たんじゅう)は、肝臓でつくられる消化液のひとつで、特に脂肪の消化を助ける重要な役割を担っています。
普段は肝臓から分泌された胆汁が「胆嚢(たんのう)」という小さな袋状の臓器に蓄えられ、必要なときに腸へ送り出されて働きます。
一方で、胆石(たんせき)とは、この胆汁が胆嚢の中で濃縮され、長くとどまることで成分の一部が結晶化して石のように固まってしまった状態を指します。
犬の場合は、「ビリルビン胆石」と呼ばれるタイプが多く見られ、シェットランド・シープドッグ(シェルティ)やアメリカン・コッカー・スパニエルなど、特定の犬種では胆石ができやすい傾向があることが知られています。
また、胆石は中高齢の犬に多く見られるため、年齢に応じた定期的な健康診断がとても大切です。
2.どんな症状が出るの?
胆石があっても、初期の段階ではほとんど症状が現れないことが多く、健康診断のエコー検査中にたまたま見つかるケースも少なくありません。
そのため、「症状がないから大丈夫」とは言い切れないのが、胆嚢の病気の難しいところです。
◆無症状の段階(早期)
ほとんどのケースでは症状がなく、日常生活にも変化が見られないことがあります。胆泥や小さな胆石の段階では、経過観察で様子をみることが多いです。
◆病気が進行してくると…
状態が進むにつれて、以下のような症状が見られるようになることがあります。
・食欲が落ちる
・嘔吐
・元気がなくなる、ぐったりする
・黄疸(白目や皮膚が黄色く見える)
・強い腹痛や発熱
こうした変化は、胆嚢を含む内臓の不調を知らせる重要なサインです。
◆さらに重症化すると…
さらに症状が悪化すると、胆嚢に炎症が起きる「胆嚢炎」や、胆嚢と腸をつなぐ総胆管が詰まる「胆管閉塞」を引き起こし、最悪の場合は胆嚢が破裂することもあります。
特に胆嚢破裂は、胆汁がお腹の中に漏れ出すことで腹膜炎を引き起こす危険な状態となり、命に関わる可能性もあるため、早急な治療が必要です。
こうした重い状態になる前に、無症状のうちから定期的に胆嚢の状態をチェックし、経過を見守ることがとても重要です。
3.胆石ができる原因は?
胆石ができる背景には、さまざまな要因が関係していると考えられています。ひとつの原因だけでなく、いくつかの要素が重なって影響することも少なくありません。
代表的な原因として、以下のようなことが挙げられます。
◆胆汁の停滞や濃縮
運動不足や脱水、胆嚢の動きが鈍くなることなどにより、胆汁がうまく流れず濃くなってしまうことがあります。これが胆石のもとになることがあります。
◆ホルモンの異常
甲状腺機能低下症やクッシング症候群といったホルモンの病気が、胆石の形成に関係していることがあります。
甲状腺機能低下症についてはこちら
クッシング症候群についてはこちら
◆体質や犬種の傾向
前述した通り、遺伝的な傾向により、胆石ができやすいとされている犬種もいます。
◆食事内容
高脂肪・高コレステロールの食事や、栄養バランスの偏った食事が胆汁の性質に影響し、胆石ができやすくなることがあります。
◆肥満や加齢
年齢を重ねるにつれて内臓の働きが少しずつ低下していきます。肥満による負担も加わることで、胆嚢にも影響が出やすくなります。
このように、日々の生活習慣や体質、年齢の影響などが複雑に絡み合って胆石ができると考えられています。
4.診断方法
当院では、主に超音波検査(腹部エコー)と血液検査を組み合わせて、胆石の有無や胆嚢の状態を総合的に診断しています。
まず、超音波検査では、胆嚢の形や動き、胆石の大きさや数の確認に加えて、周囲の臓器に影響が出ていないかどうかも丁寧にチェックします。
また、血液検査によって、肝臓や胆道系の異常の有無や、全身の健康状態もあわせて確認します。
さらに、症状や検査結果によっては、X線検査やCTといったより詳しい画像検査を行うこともあります。必要に応じて、胆汁の性状(濃さや成分など)を詳しく調べる検査を追加することもあります。
私たちは、愛犬の体への負担をできるだけ少なく抑えながらも、正確な診断につながるよう、丁寧な検査を心がけています。
5.治療法|内科から手術まで
胆石の治療は、現在の状態や今後のリスクを慎重に見極めながら、内科的なアプローチで経過を見ていくのか、それとも外科的な治療(胆嚢の摘出手術)を行うのかを検討していきます。
<内科的治療(軽症〜無症状の場合)>
症状がない、あるいは軽度のケースでは、以下のような内科的治療や生活管理を行いながら経過を観察します。
・胆汁の流れをスムーズにするお薬(胆汁酸製剤など)
・感染を防ぐための抗生物質
・脂肪やコレステロールを控えた食事療法
・定期的な経過観察(半年〜1年ごとの検診)
<外科的治療(重度または合併症がある場合)>
以下のような状況では、胆嚢の摘出手術(外科的治療)が必要になる場合があります。
・胆石が胆管につまっている場合
・重度の胆嚢炎や胆嚢破裂が疑われる場合
・黄疸(皮膚や白目が黄色くなる)や強い腹痛などの重い症状がある場合
当院では、胆嚢摘出手術にも対応しており、術後のケアまでしっかりとサポートしています。手術に関する詳細や注意点については、別途ご案内している【犬の胆嚢摘出手術の記事】もぜひご覧ください。
6.日常生活で気をつけたいこと・予防のためにできること
胆石は、日々のちょっとしたケアを積み重ねることで、予防につながります。
◆低脂肪・低コレステロールのフードを選ぶ
消化に負担をかけにくいフードを選ぶことで、胆汁のバランスを保ちやすくなります。
◆手作り食でも脂質には注意
栄養バランスが取れていても、脂質の量が多いと胆汁の性質に影響することがあります。手作りごはん派の飼い主様も、油分の使い方には気をつけましょう。
◆適度な運動で肥満予防を
運動不足は胆汁の流れを滞らせる原因になります。体重管理は、胆石の予防だけでなく、全身の健康にもつながります。
◆7歳を過ぎたら、半年に1回の健康診断を
シニア期に入ると、胆石や胆嚢のトラブルが見つかるケースが増えてきます。症状がなくても、定期的に胆嚢の状態をチェックする習慣をつけておくと安心です。
また、加齢にともなう体質の変化が胆汁の異常を引き起こすこともあります。こうした場合には、体にやさしく作用する漢方薬が効果を発揮することもあります。症状や体質に応じたケアを取り入れることで、より負担の少ない予防や治療が期待できます。
「元気だから大丈夫」と思っていたら、気づいたときには病気が進行していた……というケースも実際にあります。胆嚢のトラブルは、無症状で進行することも多いため、年齢や犬種に応じた健康チェックをぜひ取り入れていただければと思います。
7.おわりに|「無症状」だからこそ、見逃さないで
胆石や胆泥は、症状が出る前に見つけることができる、数少ない病気のひとつです。
ただその一方で、まったく症状がないまま進行してしまうケースも少なくありません。気づいたときにはすでに病気が進んでいた、ということもあるため、早期発見がとても重要になります。
だからこそ、健康診断の中で胆嚢の状態をしっかりとチェックすることが大切です。
私たちにゅうた動物病院では、「病気を診る前に、動物と飼い主様の背景を丁寧に診ること」を大切にしています。
診断や治療だけでなく、不安なお気持ちに寄り添いながら、飼い主様が納得して選択できるようなご提案を常に心がけています。
気になる症状がある場合や健康診断の結果で心配な点があるときは、どうぞお気軽にご相談ください。
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