にゅうた動物病院コラム

【獣医師解説】猫の変形性関節症とは|見逃されやすい関節の痛みと最新治療

【獣医師解説】猫の変形性関節症とは|見逃されやすい関節の痛みと最新治療

「最近、愛猫の動きが鈍くなってきた気がする」「毛づくろいの回数が減ったかも」
そんな変化に気づいても、つい『年齢のせいかな』と受け止めてしまうこともあるかもしれません。
ですが、こうした変化は、実は関節の痛みからくるサインであることもあります。

猫の変形性関節症は特に高齢の猫に多く見られ、ある報告では、12歳以上の猫の90%以上に関節の変化が確認されたとされています。

猫は本来、痛みを隠す傾向がある動物です。そのため、飼い主様が気づかないうちに症状が進んでしまい、治療のタイミングを逃してしまうケースも珍しくありません。

今回は、猫の変形性関節症について、原因や見られやすい行動の変化、そして進歩している治療法について解説します。

■目次
1.猫の変形性関節症とは?
2.こんな行動が見られたら要注意
3.原因
4.治療法と新しいお薬について
5.おうちでできること・予防の工夫
6.おわりに

 

1.猫の変形性関節症とは?


変形性関節症(へんけいせいかんせつしょう)とは、関節の中にある軟骨がすり減ることで炎症が起こり、痛みや動きづらさが出てくる病気です。

犬では「足を引きずる」「痛みで鳴く」といったわかりやすい症状が見られることがありますが、猫の場合はとても我慢強く、痛みを隠してしまう傾向があります。

そのため、飼い主様が変化に気づきにくく、症状が進行してから見つかるケースも少なくありません。

 

2.こんな行動が見られたら要注意


この病気の怖いところは、日常のさりげない行動の変化として現れることが多い点です。
以下のような行動が見られたら、関節に痛みを抱えているサインかもしれません。

・動きがゆっくりになる、寝ている時間が増える
・高いところに登らなくなる、ジャンプをためらう
・毛づくろいの回数が減る、届かない場所の毛が乱れている
・触られるのを嫌がる、触ると怒るようになった
・トイレに間に合わない、失敗することが増えた

変形性関節症は静かに、ゆっくりと進行する病気です。
「気づいたときには、ほとんど動かなくなっていた…」とならないように、日頃の様子を観察し、小さな変化を見逃さないことがとても大切です。

 

3.原因


猫の変形性関節症は、加齢に伴う関節軟骨のすり減りがもっとも一般的な原因とされています。
しかし、それ以外にも以下のような要因が関係していると考えられています。

 

肥満や運動不足による関節への負担
体重が増えると関節にかかる負担も大きくなり、炎症や痛みを引き起こしやすくなります。

 

過去のケガや脱臼の影響
一度ケガをした関節は、その後に変形性関節症を発症しやすくなる場合があります。

 

遺伝的な骨格の異常
スコティッシュフォールドは、遺伝的に骨や関節に異常を起こしやすい品種として知られており、若い年齢でも関節の変化が見られることがあります。

 

4.治療法と新しいお薬について


猫の変形性関節症の治療では、症状の進行を抑えたり、痛みを和らげたりするために、いくつかの方法を組み合わせて対応します。
猫の状態や性格に合わせて、無理なく続けられる治療を選ぶことが大切です。

<体重管理と栄養サポート>
まず基本となるのが、適正な体重を保つことです。
体重が増えると関節への負担も大きくなるため、食事の見直しや適度な運動で体型管理を行います。

また、関節の健康をサポートするサプリメントや漢方(例:アンチノールなど)を取り入れるのも有効です。
栄養面からのケアは、長期的な関節の維持にもつながります。

 

<痛み止めの使用(慎重な対応が必要)>
痛みがある場合には、非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)を使用することがあります。
ただし、猫はこのお薬に対して敏感なため、長期使用は腎臓などへの負担に注意が必要です。

使用の際は、症状の程度や健康状態をよく見ながら、獣医師の判断で慎重に投与します。

 

<新しい治療薬:抗体製剤「ソレンシア」>
最近では、猫の変形性関節症に特化した新しいお薬「ソレンシア(Solensia)」が登場しています。
これは月に1回の注射で痛みを和らげる抗体製剤で、従来のお薬に比べて腎臓への影響が少なく、安全性が高いのが特徴です。

高齢の猫でも使いやすいため、これまで治療が難しかった猫にも選択肢が広がりました。

 

<東洋医学的アプローチやマッサージの併用>
当院では、西洋医学に加えて、必要に応じて東洋医学の考え方も取り入れたケアを行っています。

鍼と漢方による自然療法
鍼は猫の様子を見ながら、無理のない範囲で行います。
嫌がる場合は無理に行わず、猫に合った方法を探していきます。

 

ご家庭で実践できる温灸ケア
ご自宅でも実践できるよう、温灸のやり方や注意点をわかりやすくご説明します。

 

毎日のケアに活かせるマッサージのコツ
効果的なツボの位置や優しく触れるコツなどをお伝えし、飼い主様が日々の中でケアしてあげられるようにサポートします。

 

このように、西洋医学と東洋医学をバランスよく取り入れ、猫にとってより優しく負担の少ないケアを目指します。

 

5.おうちでできること・予防の工夫


変形性関節症は完全に防ぐことは難しい病気ですが、進行をゆるやかにしたり、猫が少しでも快適に暮らせるように整えてあげたりすることで、生活の質を保つことができます。
日常生活の中で、以下のような工夫を取り入れてみましょう。

フローリングには滑り止めマットを敷く
滑りやすい床で転んだり、関節に負担がかかったりしないよう、足元を安定させる環境を整えます。

 

ジャンプが必要な場所にはスロープやステップを設置する
登ったり降りたりする動作をサポートすることで、関節への衝撃を和らげることができます。

 

トイレの縁を低くして出入りしやすくする
足を高く上げにくくなった猫でも使いやすいように、段差を少なくしましょう。

 

適度な運動と体重管理を心がける
遊んだり体を動かしたりすることで関節の柔軟性を保ち、過度な体重増加を防ぐことができます。

 

シニア期(7歳頃〜)以降は定期健診を習慣に
年齢とともに関節のトラブルが起きやすくなります。症状がなくても、半年に1回の健康チェックをおすすめします。

 

6.おわりに


変形性関節症は、多くのシニア猫が抱えている見えにくい不調です。
「最近、高いところに登らなくなった」「前より動かなくなった」
そんな小さな変化にいち早く気づいてあげることが、猫の健康寿命を延ばす大切な第一歩になります。

近年では、選べる治療法の幅も広がり、痛みの緩和や生活の質の向上につなげることが可能になってきました。
当院では、猫の状態だけでなく、飼い主様のお気持ちや不安にも寄り添いながら、無理のないケアの方法を一緒に考えてまいります。
「これって年齢のせいかな?」と迷うようなことがあれば、どうぞお気軽にご相談ください。

 

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