猫の甲状腺機能亢進症|早期発見で大切な家族の健康を守りましょう
愛猫が「食欲はあるのに体重が減っていく」「以前より活発になった」と感じたことはありませんか?
これらは、シニア期の猫に多く見られる甲状腺機能亢進症のサインかもしれません。この病気は猫では比較的よく見られ、日本では推定5頭に1頭が発症しているとも言われています。
甲状腺機能亢進症は、早期発見と適切な治療を行うことで愛猫の健康を取り戻すことが可能な病気です。しかし、治療をせずに放置すると、心臓や腎臓などの重要な臓器に影響を及ぼし、深刻な状態になることがあります。
今回は、甲状腺機能亢進症の症状や原因、治療方法について詳しく解説いたします。
■目次
1.甲状腺機能亢進症とは?
2.見逃してはいけない症状
3.治療しないとどうなるの?
4.診断
5.治療法
6.日常生活での注意点
7.よくある心配とご質問
8.おわりに
1.甲状腺機能亢進症とは?
甲状腺機能亢進症は、喉の近くにある甲状腺が腫れる(良性腫瘍や過形成)ことで発症します。この状態では、代謝を調節する甲状腺ホルモンが過剰に作られるため、体内の代謝が必要以上に活発になり、さまざまな症状が現れます。
<どんな猫がなりやすい?>
この病気は、主に高齢の猫で見られることが多く、特に12〜13歳頃が発症のピークとされています。また、以下の特徴を持つ猫での発症が報告されています。
・避妊・去勢手術を受けている猫
・室内飼いの猫
・キャットフードを主食としている猫
これらは直接の原因ではありませんが、生活環境や年齢が発症リスクに関与している可能性があります。
2.見逃してはいけない症状
甲状腺機能亢進症では、いくつかの特徴的な症状が現れます。中でも特に注目すべきなのは、食欲が旺盛なのに体重が減少することです。この変化は、飼い主様にとって最初に気づきやすいサインかもしれません。
<主な症状>
・食欲が増しているのに体重が減る
・以前より活発になり、落ち着きがなくなる
・多飲多尿(水をよく飲み、それに伴い尿量が増える)
・嘔吐や下痢が増える
・毛並みが悪くなる
・夜間に大きな声で鳴く
ただし、これらの症状の中には、「元気になった」と誤解されやすいものもあります。しかし、甲状腺ホルモンの過剰分泌による代謝の異常が原因となっているため、放置しておくと体への負担が大きくなる可能性があります。
特に高齢の猫でこうした変化が見られた場合には、甲状腺機能亢進症の可能性を考慮し、一度検査を受けることをおすすめします。
3.治療しないとどうなるの?
甲状腺機能亢進症を放置すると、さまざまな臓器に深刻な影響が及ぶ可能性があります。病気が進行することで、体全体に負担がかかり、次第に全身の消耗や衰弱を招く恐れがあります。
・心臓への負担の増加
甲状腺ホルモンの過剰分泌により、心拍数が上昇して心臓への負担が増加します。その結果、心不全のリスクが高まります。
猫の心臓病についてはこちらから
・高血圧による臓器障害
高血圧が続くと、血管に負担がかかり、腎臓や目、脳などの臓器が損傷を受ける可能性があります。
腎臓病についてはこちらから
・腎臓や肝臓の機能悪化
特に高齢の猫では、甲状腺機能亢進症の影響で腎臓や肝臓の状態が悪化しやすくなります。これにより、解毒や老廃物の排出が正常に行えなくなります。
肝臓病についてはこちらから
・全身の衰弱
症状が進行すると、体がエネルギーを過剰に消費し、全身が消耗して体力を失ってしまいます。
甲状腺機能亢進症は、適切な治療を行えば、多くの場合1~2週間程度で症状が改善し、その後も良好な状態を維持できる可能性が高まります。
早期に発見し治療を始めることで、愛猫の健康を守り、安心して穏やかな日々を続けられるようになります。
4.診断
診断は、血液検査を中心に行います。また、触診や追加検査を組み合わせて、病気の影響や進行状況を総合的に評価します。
・血液検査
甲状腺ホルモン値(T4値)を測定し、基準値を超える異常がないかを確認します。
血液検査についてはこちらから
・触診
首周りを触診して甲状腺の腫れやしこりがあるかをチェックします。
・追加検査
病気が進行すると、心臓や腎臓など他の臓器に影響が及ぶ場合があります。そのため、必要に応じて心臓や腎臓の機能を調べる検査を行います。
5.治療法
当院では、愛猫の体調や飼い主様のライフスタイルに合わせて、主に以下の3つの治療法をご提案しています。
それぞれの治療法にはメリットや注意点があるため、詳しく説明したうえで最適な方法を一緒に選んでいきます。
<内服薬による治療>
内服薬による治療は、副作用が出た場合に投薬を中止できるという利点があります。
しかし、1日2回の確実な投薬が必要で、24時間以上の間隔が空くと効果が低下するため、正確な投薬が非常に重要です。
また、治療を進める中で、定期的な血液検査を行い薬の量を調整する必要があります。
<療法食による治療>
療法食による治療は、食事を変えるだけで治療が可能な便利な方法です。
ただし、他の食事や間食が一切禁止となるため、徹底した食事管理が必要です。
また、すべての猫が好んで食べるわけではないため、食いつきに個体差があることも課題です。
さらに、腎臓病を併発している場合には使用できないことがあるため、事前に猫の健康状態を詳しく確認することが重要です。
<手術による治療>
手術による治療は、甲状腺機能亢進症を根治できる可能性が高い方法です。しかし、高齢による手術リスクや麻酔のリスクが伴うため、慎重な判断が必要です。また、術後は愛猫の体調をしっかりと管理し、適切なケアを行うことが重要です。
6.日常生活での注意点
治療中は、定期的な体重測定や食欲・飲水量・排泄の観察を行うことが重要です。これらの変化は、治療の効果や健康状態を把握するための大切な指標となります。
また、処方されたお薬は指示通りに確実に投与し、定期的な検査を欠かさず受けるようにしましょう。
さらに、健康を維持するために、年2回以上の定期健診を受けることをおすすめします。愛猫に普段と違う様子が見られた場合は、早めに受診することで病状の深刻化を防ぐことができます。
7.よくある心配とご質問
Q.治療費はどのくらいかかりますか?
A.初期の検査や治療には2~3万円程度が目安です。その後、通院や投薬を行う場合には、月5,000~10,000円程度かかることが一般的です。ただし、症状や必要な治療内容によって費用は異なるため、詳しい金額については当院までご相談ください。
Q.治療は一生続けないといけませんか?
A.内服薬や療法食による治療は継続が必要ですが、手術を選択された場合は、手術が成功すればその後の投薬が不要になることがあります。ただし、猫の体調や術後の経過によって個別の対応が必要です。
Q.他の病気との見分け方は?
A.腎臓病や糖尿病など、似た症状を示す病気もあるため、正確な診断には血液検査や追加検査が必要です。
特に高齢の猫では、複数の病気を併発しているケースも少なくありません。そのため、総合的な検査を通じて愛猫の健康状態を詳しく把握することをおすすめしています。
8.おわりに
にゅうた動物病院では、甲状腺機能亢進症の早期発見と治療に力を入れています。愛猫の健康に少しでも気になることがありましたら、どうぞお気軽にご相談ください。
定期的な健康診断と適切な治療を通じて、飼い主様と愛猫がより快適で穏やかな時間を過ごせるよう、全力でサポートさせていただきます。愛猫の小さな変化も見逃さず、一緒に健康的な毎日を目指していきましょう。
にゅうた動物病院|相模原市 相模大野・東林間の動物病院
診療内容についてはこちらから
<参考文献>
Immune thrombocytopenia (ITP): Pathophysiology update and diagnostic dilemmas - LeVine - 2019 - Veterinary Clinical Pathology - Wiley Online Library
Treatment and predictors of outcome in dogs with immune-mediated thrombocytopenia in: Journal of the American Veterinary Medical Association Volume 238 Issue 3 () (avma.org)