にゅうた動物病院コラム

見逃していませんか?シニア犬の認知症|初期症状とケアのポイント

見逃していませんか?シニア犬の認知症|初期症状とケアのポイント

近年、犬の平均寿命が延びたことで、シニア犬ならではの問題を抱えるケースが増えています。その中でも特に飼い主様を悩ませるのが認知症(認知機能不全症候群)です。
この病気は、加齢に伴い脳の機能が衰えることで、行動や性格の変化を引き起こすものです。

アメリカで行われた調査では、11〜12歳の犬の約28%、15〜16歳では約68%が認知症に関連する何らかの変化が見られたと報告されています。このデータからもわかるように、認知症はシニア犬にとって決して珍しい病気ではありません。

今回は、シニア犬にとって身近な病気である認知症に焦点を当て、幸せな日々を長く続けていくためにはどのような工夫やケアが必要なのかを解説します。

■目次
1.シニア犬の認知症とは? 症状が出る年齢や原因について
2.要注意! シニア犬の認知症でよく見られる初期症状
3.認知症の症状と間違えやすい他の病気について
4.診断
5.治療とサポート
6.早期発見のために飼い主様ができること
7.おわりに

 

1.シニア犬の認知症とは? 症状が出る年齢や原因について


シニア犬が認知症を発症する背景には、脳の大脳や海馬(認知機能を司る部分)の変化があります。
これらの変化は加齢とともに進行し、記憶や判断力、行動に影響を及ぼし、認知症の症状が現れることがあります。

特に10歳以上の犬では、認知症に関連する変化が顕著になるケースが増えるとされています。しかし、すべてのシニア犬が認知症を発症するわけではなく、たとえ発症してもその症状の進行や程度には個体差があるため、初期段階では飼い主様が異変に気づきにくい場合も少なくありません。

 

2.要注意! シニア犬の認知症でよく見られる初期症状


認知症は、学習、記憶、空間認識、社会的な関わり、睡眠パターンなど、生活のあらゆる側面に影響を与える病気です。
シニア犬において認知症が疑われる場合、初期段階では以下のような症状が見られることがあります。

無意味な徘徊や立ち尽くし
同じ場所を何度もぐるぐると回り続けたり、何もない空間を見つめながら呆然と立ち尽くしたりする様子が見られることがあります。

 

昼夜逆転
昼間は眠ってばかりいるのに、夜になると目が覚めて吠えたり歩き回ったりすることがあります。

 

トイレの失敗
トイレの場所を忘れ、部屋のあちこちで粗相をしてしまうことがあります。

 

家族への反応の変化
名前を呼ばれても反応しない、飼い主様を見ても以前のように喜ばないなど、反応が鈍くなることがあります。

 

不安や攻撃性の増加
これまで穏やかだった性格が変わり、家族に向かって吠えたり、噛みついたりするようになる場合があります。

 

食欲の変化
食事をしたばかりなのに食べ物を欲しがったり、決まった時間以外にしきりに食事をねだったりすることがあります。

 

鳴き声の増加
吠えるのが止まらなくなり、何もない空間に向かって吠え続けることがあります。

 

3.認知症の症状と間違えやすい他の病気について


認知症で見られる症状の中には、他の病気が原因で引き起こされているケースもあります。そのため、正しい診断を行うことが重要です。

<認知症と間違いやすい病気の例>

・目や耳の病気
白内障などの目の病気では、視力が低下してうまく歩けなくなったり、物にぶつかったりすることがあります。
また、外耳炎や中耳炎など耳の病気が原因で、音が聞こえにくくなり、名前を呼んでも反応しなくなる場合もあります。

・脳の病気
脳腫瘍や神経の異常によって認知機能に変化が生じることがあります。

・骨や関節の病気
骨の痛みや関節炎が原因で、歩きたがらない場合や、触られることを嫌がって攻撃的な行動を見せる場合もあります。

 

<他の病気と認知症の境界について>

これらの病気以外にも、加齢による体の衰えが症状に関係していることがあります。認知症との境界はあいまいな場合も多いですが、初期段階では「問題行動」と感じるような変化がなく、単なる加齢の影響として見過ごされることも少なくありません。

ただし、症状が徐々に進行する場合には、加齢による変化が悪化して認知症と診断されることがあります。初期の異変を見逃さないためには、愛犬の行動や体調に注意を払い、気になる場合は早めに動物病院に相談することが大切です。

 

4.診断


シニア犬の認知症は、血液検査や画像検査だけでは完全に診断できないため、判定用のチェックシートも利用します。
このチェックシートでは、日常生活の中で見られる行動や変化を点数化し、点数が高いほど認知症の可能性が高いと評価します。
また、症状が急激に進行している場合には、脳腫瘍などの別の病気が隠れている可能性を考慮し、CTやMRIといった画像検査を行うことがあります。

 

5.治療とサポート


認知症は完治が難しい病気ですが、症状の進行を遅らせたり、生活の質を向上させたりするための治療やケアが可能です。以下は主な治療法やサポート方法です。

・薬の処方
昼夜逆転などの症状が見られる場合、寝付きやすくなる薬を処方します。

・サプリメントの処方
DHAやEPAなど、抗酸化作用をもつ成分が含まれるサプリメントは、脳の健康維持に繋がるといわれています。

・知育グッズの使用
ノーズワークマットや知育トイなどを使うことで、脳の働きを活性化させることに繋がります。

・東洋医学や理学療法
漢方や鍼灸、マッサージといった東洋医学や理学療法を取り入れることで、体に穏やかな刺激を与え、脳の活性化やリラックス効果が期待されます。

 

<飼い主様へのサポート>
治療を進める中で、治療がうまくいかない場合や、介護により飼い主様が心身の疲労を感じてしまう場合もあるかと思います。当院では、そのような際には飼い主様とご相談のうえ、一時的に愛犬をお預かりするサービスを提案することも可能です。

認知症ケアは、愛犬と飼い主様が穏やかで快適な時間を過ごせるように支えることが何より大切です。どんな小さな不安でも構いませんので、ぜひお気軽に当院にご相談ください。一緒に最適な方法を考えていきましょう。

 

6.早期発見のために飼い主様ができること


認知症は徐々に進行することが多く、日常生活の中で気づきにくい病気です。そのため、日頃から愛犬の行動や性格に注意を払い、少しでも異変を感じた際には早めに対応することが大切です。

<日常的な観察と記録のすすめ>

・行動や性格の変化に注目
例えば、普段はすぐに反応する呼びかけに反応しなくなる、同じ場所をぐるぐる回る、夜に吠えるなどの変化が見られる場合には注意が必要です。

記録をとる
言葉で説明するのが難しい場合には、スマートフォンなどで動画を撮影して記録を残すとよいでしょう。診察時に獣医師に状況を伝えやすくなります。

 

<自己判断せずに早めの相談を>
認知症のような症状が見られても、「年のせいかな…」と軽く考えてしまうこともあるかもしれません。しかし、自己判断せずに早めに獣医師に相談することが、適切なケアへの第一歩です。早期発見によって症状の進行を遅らせ、生活の質を向上させるケアを始めることができます。

 

7.おわりに


認知症はシニア犬に多く見られる病気で、脳の働きが衰えることによって発症します。日々の生活の中で、適度な刺激を加えることが脳の活性化に繋がり、症状の進行を遅らせる助けとなります。
また、運動も大切な刺激の一つです。「年を取ったから」と散歩の回数や時間をむやみに減らすのではなく、愛犬の体調や様子を見ながら調整していくことがポイントです。

愛犬の健康や行動に不安を感じた際は、どうぞお気軽に当院にご相談ください。飼い主様と愛犬が安心して過ごせるよう、全力でサポートさせていただきます。

 

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にゅうた動物病院|相模原市 相模大野・東林間の動物病院
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<参考文献>

Prevalence of behavioral changes associated with age-related cognitive impairment in dogs in: Journal of the American Veterinary Medical Association Volume 218 Issue 11 ()

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