犬の軟口蓋過長症について|短頭種に多い呼吸器トラブル
鼻がぺちゃっとした短頭種は、その愛らしい見た目から多くの方に人気がありますが、遺伝的にかかりやすい病気がいくつか知られています。そのひとつに「軟口蓋過長症」があります。
この病気になると、呼吸がうまくできず、運動がしづらくなるだけでなく、重度の場合には失神してしまうこともあるので、早めの対処が大切です。
今回は、犬の軟口蓋過長症について、当院での治療法やご家庭でできる対策を中心にお伝えします。
■目次
1.軟口蓋過長症とは
2.症状
3.原因
4.診断
5.治療
6.日常の注意点と予防
7.おわりに
1.軟口蓋過長症とは
口の奥には「軟口蓋(なんこうがい)」と呼ばれる柔らかい部分があり、飲食をするときに鼻への通路を塞ぐことで、食べ物や水が鼻に逆流することを防いでいます。
しかし、軟口蓋が通常よりも長く伸びてしまうと、気道を塞いでしまい、呼吸がしづらくなる「軟口蓋過長症」という病気を引き起こします。
特に短頭種(パグ、フレンチ・ブルドッグ、イングリッシュ・ブルドッグなど)はこの病気の影響を受けやすく、若いうちから症状が現れることが多いです。
そのため、当院ではX線検査で軟口蓋過長症のリスクが高いと判断された場合、避妊・去勢手術の際に麻酔をかけるタイミングで予防的に軟口蓋を切除することをおすすめしています。
2.症状
軟口蓋過長症では、以下のような症状がよく見られます。
・呼吸器の症状:いびき、呼吸が苦しそう、運動を嫌がる
・消化器の症状:嘔吐、逆流、食欲が落ちる
・その他の症状:十分に眠れない
この病気は、治療をしないまま放っておくと徐々に進行して悪化してしまいます。そのため、できるだけ早めに対処することが大切です。
重症化すると、軽い運動もできなくなり、粘膜が紫色になる「チアノーゼ」や失神といった症状が現れることもあります。
3.原因
軟口蓋過長症は、主に遺伝の影響を強く受けます。短頭種は品種改良によってマズルが短くなっているため、相対的に軟口蓋が長くなりやすく、その結果として発症リスクが高くなります。
この他にも、肥満や炎症、加齢による組織の緩みなどの後天的な要因が関与することがあります。
また、短頭種は「鼻腔狭窄」、「喉頭虚脱」、「気管形成不全」といった他の呼吸器の病気にもかかりやすい傾向があります。これらの病気は、まとめて「短頭種気道症候群」と呼ばれています。
4.診断
軟口蓋過長症の診断には、いくつかの方法を組み合わせて行います。
まず、呼吸音の聴診や、口の中を視診する身体検査を行います。加えて、X線などの画像診断も活用します。
場合によっては、運動負荷試験や睡眠中の呼吸をモニタリングする機能検査も併用し、詳しく状態を確認します。
5.治療
治療法は、保存的治療と外科的治療に分かれます。
<保存的治療>
体重管理を行い、飼育環境の温度や湿度を適切に保つこと、さらに必要な場合には抗炎症薬などの薬物療法を組み合わせて治療します。
<外科的治療(軟口蓋切除術)>
一般的には伸びすぎた軟口蓋の一部を切除して短くします。当院では、容積を減らしながら長さも短くできるFFP術を採用しています。手術の際には、通常のメスや電気メスが使用されることがありますが、当院ではサージトロンというラジオ波メスを使用し、出血のコントロールを行いながら組織へのダメージを最小限に抑えるよう努めています。
重症化してしまうと手術の効果が十分に得られない可能性もあるため、当院では早めの手術(できれば避妊・去勢手術の際)をおすすめしています。
術後は状態によって1〜3日程度の入院が必要ですが、呼吸の安定が確認でき次第、お家にお返しします。
手術から1週間以内に呼吸が楽になることが多いですが、再発の可能性もあるため、術後も定期的に動物病院で状態を確認することが重要です。
6.日常の注意点と予防
特に短頭種がいるご家庭では、次のことに気をつけるとよいでしょう。
<適切な体重管理>
肥満は、軟口蓋過長症だけでなく、さまざまな病気を悪化させる原因になります。基本的には、総合栄養食をパッケージの表記通りに与え、適切な体型を維持できるようにしましょう。
<運動管理>
適度な運動は肥満の予防に役立ちます。ただし、過度な運動は呼吸を悪化させることがあるため、無理のない範囲で行うことが重要です。
<環境調整>
室温と湿度を適切に保つことで、呼吸器への負担を軽減できます。犬は人間よりも暑さに敏感なので、特に夏場は冷房を使用して室温を25℃、湿度を50%程度に保つように心がけましょう。
また、ストレスを予防するために、よく遊んであげたり、スキンシップを増やしたり、留守番の時間を短くするなどの工夫も有効です。
<定期的な健康診断>
短頭種は軟口蓋過長症を発症しやすいため、他の犬種以上に健康診断が重要です。子犬のころから定期的に動物病院で診察を受け、早期発見と早期治療に努めましょう。
特に、いびきをかく、よく眠れていない、疲れやすく運動量が減っている、といった様子が見られる場合は注意が必要です。
7.おわりに
軟口蓋過長症は短頭種でよく見られる病気です。重症化を防ぐためには、早期発見と早期治療がとても重要です。
普段から愛犬の様子をよく観察していただき、今回お話ししたような症状が見られた場合には、ぜひ当院にご相談ください。
また、短頭種は遺伝的に呼吸器に問題を抱えることが多いため、犬のQOL(生活の質)を高めるためにも、今一度、食事や運動、飼育環境が適切か確認し、不十分な点があれば改善することが重要です。
気になることや不安な点があれば、どうぞお気軽にご相談ください。愛犬の健康をしっかりとサポートいたしますので、安心してお任せください。
にゅうた動物病院|相模原市 相模大野・東林間の動物病院
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