愛犬の口元に異変はありませんか?| 見逃さないための「口腔内腫瘍」早期発見ガイド
愛犬の健康を守るうえで、見落としてはいけない病気のひとつに「口腔内腫瘍」があります。
特に気をつけたいのは、その多くが悪性腫瘍であるという点です。だからこそ、できるだけ早く気づいて、早めに治療を始めることが、愛犬の生活の質(QOL)を保つためにとても大切になります。
しかし、腫瘍が口の奥の方にできてしまうと、外からは見えづらく、さらに初期症状もはっきりしないことが多いため、発見が遅れてしまうケースも少なくありません。
だからこそ、飼い主様が日頃から愛犬のお口の中をこまめにチェックする習慣をもつことが大切です。
今回は、犬の口腔内腫瘍について、見逃しやすい初期症状や、お口の健康を保つために心がけたいポイントを解説します。
■目次
1.犬の口腔内腫瘍とは? 種類と特徴
2.見逃しやすい初期症状と気をつけたいサイン
3.ご家庭でできる口腔内チェックの方法
4.診察と検査内容
5.治療法
6.予防と早期発見のために|日頃からできるお口のケア習慣
7.おわりに
1.犬の口腔内腫瘍とは? 種類と特徴
犬の口の中にも「腫瘍(できもの)」ができることがあり、特に注意が必要なのは悪性腫瘍(がん)です。ここでは、よく見られる口腔内腫瘍の種類と、それぞれの特徴についてご紹介します。
◆メラノーマ(悪性黒色腫)
犬の口腔内腫瘍の中で、もっとも頻繁に見られるタイプです。進行が早く、悪性度も高い傾向にあります。特に、ミニチュア・シュナウザーやミニチュア・ダックスフンドなどの犬種で多く見られ、舌や歯ぐきなどにできることが多いのが特徴です。
◆扁平上皮癌
主に歯ぐきや上あご(口蓋)にできやすい腫瘍です。口の中の粘膜に発生するため、出血や口臭、食べづらさなどが見られることもあります。
◆線維肉腫
上記2つの腫瘍に比べると、進行のスピードはやや緩やかです。ただし、油断は禁物で、周囲の組織にじわじわと広がる可能性もあります。
これらの口腔内腫瘍は、中高齢のシニア期に入った犬で多く見られます。また、一部には良性の腫瘍もありますが、実際には多くは悪性であることが特徴です。
2.見逃しやすい初期症状と気をつけたいサイン
口腔内腫瘍は、口の中にできるため気づきにくく、見逃されやすい病気です。以下のような変化が見られたら、口腔内の異常のサインかもしれません。
<初期に見られることがあるサイン>
・口臭が変わった(特に、口の片側だけ強くにおう場合)
・食べ方に変化がある(片側だけで噛んでいる、ドライフードを避けるようになった)
・よだれの量が増えた
・口元に触られるのを嫌がる
・顔をこすったり、口の周りを気にしたりする様子がある
<症状が進行してくると見られるサイン>
腫瘍が大きくなったり周囲に広がったりしてくると、以下のような変化が見られることもあります。
・顔の左右どちらかが腫れてきたように見える
・首のリンパ節(首元のしこり)が腫れている
・唾液に血が混じる
・元気がない、食欲が落ちた
このような症状がある場合は、すぐに動物病院で診てもらいましょう。
3.ご家庭でできる口腔内チェックの方法
口腔内腫瘍を早い段階で見つけるためには、ご家庭での定期的な口元チェックがとても大切です。
ちょっとした習慣でも、病気の早期発見につながる可能性があります。以下のような方法をぜひ日常のケアに取り入れてみてください。
①犬が落ち着いているときに、優しく口元に触れてみる
嫌がらないように、無理はせず、短時間で終えるのがポイントです。
②犬が嫌がらないようであれば、そっと口を開けて中をのぞく
ペンライトなどを使うと、奥までよく見えます。無理に開けようとせず、できる範囲で大丈夫です。
③歯ぐきの色や、しこり・出血がないかを確認する
左右差や、歯ぐきが赤く腫れている、白っぽい、あるいは硬いふくらみがあるといった変化がないか見てみましょう。
④終わったら、ごほうびのおやつを与える
「頑張ったら良いことがある」と覚えてもらえると、次回以降もスムーズです。
正常なお口の中は、歯ぐきがきれいなピンク色をしており、出血やしこり、嫌なにおいもありません。
このとき大切なのは、愛犬が嫌がらないように、少しずつチェックに慣らしていくことです。
最初は口元にそっと触れるだけでも十分ですし、ペンライトを怖がるようであれば、歯みがきのタイミングで軽く観察するだけでも構いません。
また、こうしたお口のケアは、できれば子犬の頃から習慣づけておくのがおすすめです。成犬になってからでも、少しずつ練習を重ねれば、自然に受け入れてくれるようになります。
口腔内のチェックに慣れておくことで、病気の早期発見に役立つだけでなく、突然の診察時にも落ち着いて対応できるようになります。さらに、無理に口を開けようとして噛まれてしまうようなトラブルを防ぐことにもつながります。
習慣づけとして、週に1回程度を目安にチェックを行うとよいでしょう。
4.診察と検査内容
動物病院では、腫瘍の有無や種類を見極めるために、以下のような検査が行われます。
◆視診や触診
口の中の様子や腫れの有無、場所や大きさなどを確認します。
◆血液検査
全身の健康状態や、腫瘍による体への影響を調べます。
◆画像検査(レントゲン・CTなど)
腫瘍がどれくらい広がっているか、骨に浸潤していないか、また他の部位に転移していないかを詳しく確認します。
◆生検
必要に応じて麻酔をかけたうえで腫瘍の一部を採取し、顕微鏡で詳しく調べます。これによって腫瘍の種類や性質がわかり、治療方針を立てるのに役立ちます。
5.治療法
愛犬が口腔内腫瘍と診断された場合、治療の基本となるのは手術です。
特に早い段階で見つかった場合は、腫瘍の部分だけを切除することで、生活への影響も最小限に抑えられる可能性があります。
しかし、発見が遅れてしまい、腫瘍が大きくなって周囲の組織や骨にまで広がっている場合には、下あごの一部を切除するような大がかりな手術が必要になることもあります。
また、腫瘍の種類や進行具合によっては、手術に加えて「抗がん剤治療(化学療法)」や「放射線治療」などを組み合わせるケースもあります。
これらの治療は、腫瘍の再発や転移を抑えるために行われることがあります。
いずれの場合も、できるだけ早く異変に気づき、早期に治療を始めることがとても大切です。
6.予防と早期発見のために|日頃からできるお口のケア習慣
愛犬の口腔内腫瘍を防いだり、早く気づいてあげたりするためには、日常的なお口のケアを習慣にすることがとても大切です。
ご家庭でできることはたくさんありますので、無理のない範囲で少しずつ取り入れてみましょう。
◆定期的な歯みがき
定期的な歯みがきは、歯周病の予防だけでなく、腫瘍の早期発見にもつながる大切な習慣です。
歯ブラシに慣れていない場合は、ガーゼや指サックタイプのケア用品から少しずつ始めましょう。
◆定期的な歯科検診
動物病院での定期的な歯科チェックも欠かせません。年に1~2回程度を目安に健康診断の一環として受けておくと安心です。
特に高齢の愛犬や、口腔内トラブルが起きやすい犬種の場合は、より頻繁な受診を検討しましょう。
◆生活習慣の改善
毎日しっかりと水分をとることや、栄養バランスのとれたフードを与えることも、お口の健康を保つうえで大切なポイントです。
7.おわりに
犬の口腔内腫瘍は、悪性であることが多く、早期発見と早めの治療がとても重要です。
そのためには、日頃のちょっとした変化に気づいてあげること、そして定期的な口腔ケアや動物病院でのチェックを習慣にすることが大切です。
「口が臭い=歯周病」と決めつけてしまわずに、少しでも様子がおかしいと感じたときには、早めに獣医師に相談しましょう。
■関連する記事はこちら
・犬と猫の歯周病について|ご家庭でのデンタルケアが予防に繋がる
・高齢犬の歯周病、「治療できない」と諦める前に|適切なケアで快適な生活をサポート
にゅうた動物病院|相模原市 相模大野・東林間の動物病院
診療内容についてはこちらから